今、変わるべきでしょ!可藁津今茂の経営日記

title

朝礼で伝えるのは理念か、想いか

理念は飾るものではなく、活かすもの

「おはようさん」から始まる、父の朝

朝の工場には、少し湿った油の匂いと金属の響きが混じる。
作業服姿の社員たちが集まる中、父は今日も決まった場所に立っていた。

「おはようさん。昨日の仕上げ、ええ感じやったな。けど、最後の確認はもう一歩詰めたほうがええ。」

そこから始まる父の朝礼には、決まった台本なんてない。
昨日の仕事、昔の失敗、取引先とのやり取り——
どんな話題も、社員への思いや、ものづくりへの誇りに繋がっている。

『理念』なんていらん、現場が語っとる

「朝礼っちゅうのはな、伝える場やのうて、通じ合う場や。」
父はそう言って、社員の顔を一人ひとり見渡す。

言葉はいつも素朴で、飾り気がない。
「理念なんて大げさなもんはいらん。現場で感じたことを話す。それが一番わかりやすいやろ。」

父にとって「理念」という言葉は、どこか他人行儀だ。
理屈よりも、汗と実感のほうが信じられる。

「昔な、機械止まったときに焦ってな、確認せずに動かしてもうたんや。
それで部品を全部ダメにした。焦るとロクなことない。落ち着いて、見直して、それが仕事や。」

社員の一人がうなずく。
父の朝礼は、説教ではなく“働く仲間の声”として届いていた。

想いはいはある。でも「軸」が見えない

けれど、娘である私の耳には少し違って聞こえる。
言葉は熱いのに、受け取り方は人それぞれ。

「お父さんが何を大事にしているか」は感じ取れるけれど、
「どう行動してほしいか」は、どこか曖昧だ。

もし理念という形で“軸”を明確にしてから話せたら、
父の思いはもっと社員の心に届くのではないか——そう感じる。

理念は抽象的だけど、だからこそ具体的な話で補うことが大切。
「理念を掲げるだけでは届かない。
でも、理念を話すだけでも足りない。
現場の言葉と結びついたときに、初めて“生きた理念”になる。」

朝礼は、理念を“日常の言葉”に変えるための、小さな実験の場なのだと思う。

背中で見せる世代、言葉で繋ぐ世代

父は「言葉ではなく背中で見せる」世代。
私は「言葉があるから背中が伝わる」と信じる世代。

どちらが正しいわけでもない。
ただ、理念があるなら語られなければ意味がないし、
思いがあるなら形にしなければ残らない。

朝礼は、その“間”をつなぐ場所。
理念という抽象と、現場という具体を結ぶ、経営者の原点かもしれない。

父の言葉は、理念ではなかったかもしれない。
でも、そこには確かに“生き方”があった。
それを私は、少しずつ「言葉」にしていきたいと思う。

今回の気づき

理念は抽象的なものだが、朝礼で経営者が具体的な話に落とし込むことで初めて浸透する。
父は「理念より実感」、娘は「実感を理念に」。
あなたの会社では、理念は“額に飾るもの”になっていないだろうか。
それとも、毎朝の言葉で“生きている”だろうか。

この物語はフィクションですが、実際の経営現場でよくある話をもとにしています。

 © 2025 プラド株式会社

ユーザー情報を使用してログイン

情報を忘れましたか?