今、変わるべきでしょ!可藁津今茂の経営日記
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依頼がお願いでなく指示になっていませんか?
相手の時間を尊重するということ
夕方、実家の事務所で帳簿を整理していたときのこと。
父・可藁津今茂(68歳)がパソコンに向かってメールを打っていた。
ふと隣を見ると、画面には長めの依頼文が並んでいる。
「誰に送るの?」と聞くと、
「取引先の若い人にな。データを送ってもらうんやけど、操作がややこしいサイトらしくてな。マニュアルを作って、やり方を教えてくれって頼んどいた」と父。
私は思わず、眉をひそめた。
「え、それ、頼むというより指示してる感じじゃない?
自分が使えないから相手にやれって言ってるように聞こえるよ」
父は苦笑いを浮かべて、
「いやいや、わからんもんはしゃあないやろ。ちゃんと伝えといた方が早いやんか」と言う。
でも、そのやり取りを聞いて、私は思った。
早いと相手に手間をかけさせるのは、違う。
お願いが『自分都合の依頼』になっている
父の世代にとって「お願い」とは、困っていることを相手が助けてくれるという、温かい信頼関係の中にある。
しかし今の時代、相手のスケジュールや負担を想像できなければ、それは指示や依存として受け取られる。
父は悪気があるわけではない。
「昔から、相手が助けてくれるもんや」と思っているだけだ。でも、今は“誰かの善意”の上にビジネスは成り立たない。
「お願い」と「指示」は、言葉遣いではなく、相手への想像力で決まる。相手がどう感じるかを考えないまま、「これやっといて」と言ってしまえば、それはお願いではなく、自分都合の依頼になってしまう。
『できない』を相手に丸投げしない
私は父に言った。
「できないを相手に丸投げするんじゃなくて、わからないところを一緒に確認してもらえますか?って言うだけで印象が全然違うよ」
父はしばらく黙ってから、
「・・なるほどな。相手の時間を借りてるって思えば、言い方も変わるわな」とつぶやいた。
そして、先ほどのメールを開き直し、『操作マニュアルを作ってください』を『操作で不明な点があれば教えてください』に書き換えた。
その背中を見て、私は少しうれしくなった。
「それならちゃんとお願いになったね」
配慮の言語化が大事
父のように、長く人付き合いをしてきた世代ほど、助け合いが当たり前だった時代の感覚が残っている。
だからこそ、気づかないうちに指示に近い依頼をしてしまうことがある。
けれど、今の時代に必要なのは、「相手の時間をどう使わせてもらうか」を考える『配慮の言語化』だ。
相手を信頼しているなら、その信頼に甘えず、丁寧に伝える。
それが、信頼を守る方法でもある。
今回の気づき
『お願い』とは、相手の努力と時間を尊重する姿勢。
『指示』とは、自分の都合を前提にした一方通行。
どんな言葉で伝えるかより、相手がどう受け取るかが、信頼関係を左右する。
この物語はフィクションですが、実際の経営現場でよくある話をもとにしています。


