今、変わるべきでしょ!可藁津今茂の経営日記

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『ちゃんとしとく』の『ちゃんと』が怖い

月に何度か実家に帰って経理の手伝いをしていると、父のやり取りや仕事ぶりを目にする機会がある。
その中で、いわゆる「阿吽の呼吸」が通じない場面に何度も出くわしてきた。

たとえば以前、父がいつも頼んでいた業者に、過去とほぼ同じ内容の仕事を依頼したときのこと。
業者から、「今回はどう進めましょうか?」「どこまでやればいいですか?」と、細かく質問が返ってきた。

私から見ると、前と同じ内容の仕事なのに、どうして改めてそんな確認が必要なのか不思議だった。
「自分たちが過去にやった仕事を記録していないのだろうか?」と、少し不安に感じたのを覚えている。

結局、その業者とはその後取引をやめることになった。
きっかけは、受けた仕事の内容に対して準備不足や認識違いが多く、最後は「やっぱりできません」と仕事を戻されたことだった。
おそらく、仕事をもらえるならと安請け合いをしたのだろう。

『ちゃんと』が曲者だ

けれど、「あとで断る」という対応は、仕事の大小に関係なく、信頼を大きく損なう。
この業者は、それを理解していなかった。

ただ、この出来事で思ったのは、「信頼しているから、わざわざ書かなくていい」「あのときと同じだから伝えなくても大丈夫」という“なあなあ”な関係の怖さだ。

発注する側が「前と同じで」と曖昧に伝える。
受ける側も「ちゃんとやっときます」と、具体性がないまま仕事に取りかかる。
でも、この『ちゃんと』が曲者だ。

「言わなくても伝わる」は、仕事では通じない。

『ちゃんと』とは、人によって捉え方が違う。
だからこそ、どんなに信頼関係があっても、仕事の内容や責任範囲は書面で明確にしておく必要がある。
それは、相手のためだけでなく、自分のためでもある。

「言わなくても伝わる」は、仕事では通じない。
『ちゃんと』は、ちゃんと書いて、ちゃんと確認し合わないと、後々、大きなすれ違いになる。

父の仕事ぶりを見ていると、信頼があるからこそ「ちゃんとやっとく」と言ってしまう気持ちはわかる。
でも、だからこそ『信頼してるから大丈夫』という甘さには、きちんと線を引いておくべきだと感じている。

今回の気づき

「信頼してるから言わなくていい」は、安心感ではなく『油断』かもしれない
経理という立場から見ていても、記録や言葉でのやりとりが残っているかどうかで、トラブルの芽が見えることがある。
『ちゃんと』は、言わなくても通じる魔法の言葉ではなく、通じなくなるリスクを含んでいる。
家族経営だからこそ、“ちゃんと”を形にすることが、次の信頼につながると思った。

この物語はフィクションですが、実際の経営現場でよくある話をもとにしています。

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